ラットの疼痛評価方法への画像認識技術の応用
こんにちは、Vet Analyticsでデータアナリストを行っている富永です。
Vet Analyticsは獣医学に機械学習の知見を導入しようと日々奮闘しているデータサイエンス・エンジニアチームです。 東京大学本郷キャンパス付近でいつも活動しているので興味がありましたらtwitterアカウントから連絡してください。 Vet Analyticsは様々な方からのコンタクトを歓迎しています!
前回は交差検証法について解説しました!
今回は、獣医療への機械学習の応用事例についての論文について紹介したいと思います。
今回読んだ論文の概要
今回僕が紹介したいのは、「The Rat Grimace Scale: A Partially Automated Method for Quantifying Pain in the Laboratory Rat via Facial Expressions」と言う論文です。 www.ncbi.nlm.nih.gov
これは、機械学習の画像認識の技術を用いてラットの急性疼痛評価を半自動化しようとした論文です。
まずこの論文の先行研究には「Grimace Scale」と言うものがあります。 Grimace Scaleとは顔面の筋肉をいくつかのアクションユニット(AU)に分け、そのアクションユニットの動きを見ることで言葉を喋らない動物の疼痛を評価しようと言うものです。
この論文の先行研究として開発されたのがMGS(Mouse Grimace Scale)です。これは、マウスのための疼痛評価方法で「目、鼻、頬、耳、ひげ」の5つのポイントを見ています。 このポイントの評価を部分的に自動的にすることでこのスケールの有用性をあげようと言う狙いがあるみたいです。
この研究の一番大きな目標としては、「MGS(Mouse Grimace Scale)をRGS(Rat Grimace Scale)へ拡張させる」と言うことです。
論文で使った手法について
この論文で僕が注目したポイントは3つ、「正解データとして用いる疼痛の評価方法は?」と「どのような機械学習モデルを使っているのか?」と「疼痛モデルの作成手法」です。
・正解データとして用いた疼痛評価方法 RGSによる疼痛評価と言うことはその評価が正しいかをジャッジする必要があると思います。そのジャッジする方法として、本論文では「CFAを注射した群を疼痛あり群」として用いています。5人のポスドク・学生がそれぞれ独立にスコアをつけ、その平均をペインスコアとして算出しているようです。その結果正解率は81.6%でありました。
・どのような機械学習モデルを使っているの? 機械学習モデルは、OpenCV2.0を使用しているみたいです。Open CVのHaar-Cascade classifierによってラットの顔と耳と目を矩形抽出しているみたいです。 そしてその抽出した矩形をパワポにランダムで貼り付けることで観察者の労働力を減らし評価へのバイアスをなくそうと言う試みのようです。
・疼痛モデルラットの作成 疼痛ありのラットの作成手としては、「ケイ酸アルミニウムとカラゲナン」もしくは「CFA」による炎症モデルと「卵巣摘出術を想定した回復手術」による周術期管理モデルの3つを使用しています。 このモデルでの疼痛評価も行っていて有意に疼痛の評価を行えています。
これらの結果からMGSが確実にRGSに拡張できていることがわかります!
論文についての自分の考え
この研究での機械学習の意味は「観察者の負担を減らす」と言う一点にのみフォーカスしていると言う意味で面白いなと感じました。最近の機械学習プロジェクトは、機械学習を前面に押し出しており Methodが新規性であることが多いように感じます。しかし、この研究のように研究のプロトコルの中で実験を円滑にするものとしての機械学習の使い方は、研究者を助けると言う意味での機械学習のあり方なのかなと思いました。このようなwet系の研究での機械学習の利用が促進されると面白いなと思いました。
次回は動的計画法(Dynamic Programing)について書きます。
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